大阪高等裁判所 昭和57年(ウ)592号 決定 1982年8月19日
申立人 広田義明 外二名
相手方 名方正夫
主文
本件申立てを却下する。
理由
一、申立人(控訴人)らの申立ては、別紙のとおりである。
二、当裁判所の判断
1 一件記録によれば、申立人らの求める「てん末報告書」及び「副申書」が存在し、これを第三者である兵庫県医師会において所持していることが認められる。
ところで、民訴法第三一二条は、文書の所持者と挙証者が、その文書について特別な関係を有する場合に、例外的に、その所持者の訴訟への提出についての処分権を制限することとして、この間の利害の調整を計つたものであるから、同条三号後段の文書については、これを法律関係に相当密接な関係を有するものに限定すべく、更にまた、かかる文書所持者が単に自己のため、これを相手方又は第三者に作成させたに過ぎない文書は、右法律関係に関する記載が包含されていてもこれに該当しないと解すべきところ、一件記録によれば、申立人らにおいて提出を求める右文書は、相手方がその所属する兵庫県医師会に提出した文書、及び、これとともに右相手方所属の西脇医師会会長が兵庫県医師会に提出した文書であり、この両者については、同医師会共済特別事業規則により、秘密資料とされ、外部不出の取扱いのなされていることが認められ、以上によれば、右各文書は、いずれも、第三者たる同医師会において本件事案についての共済事業の一環として徴した意見を含む内部的な資料であると窮われるから、これをもつて、右第三号後段の文書に該当するとみることはできない。
三、してみると、既に第三者である兵庫県医師会につき、右各文書の提出義務は存在しないから、本件文書提出命令の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 大野千里 林義一 稲垣喬)
申立書
三、立証趣旨
1により、本件訴訟以前の時点で被控訴人が申述した事故発生状況と乙一号証(カルテ)及び被控訴人本人供述とが相違している事実を明らかにする。
2により、当時被控訴人代理人として控訴人側と示談交渉にあたつた田野医師(当時西脇医師会会長)が、本件につき「医療過誤あり」との副申書を県医師会会長宛提出している事実。
四、文書提出義務の原因
民訴法三一二条三号後段にいう挙証者と所持者との法律関係につき作成された文書とは、両者間に成立する法律関係それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係の形成過程において作成された文書やその法律関係に関連のある事項を記載した文書も含むと解すべきである。(大阪高決昭和五三年三月六日高民集三一巻一号三八頁)。
ところで本件文書1は被控訴人が本件医療事故につき、その所属する兵庫県医師会会長宛に提出した文書であり、本件事故の経過、とりわけ控訴人倫也の症状の経過が記載されており、早発黄だんの有無プラハの一期症状の発症時期が重大な争点となる本件訴訟で真相解明に不可欠の文書であり、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として、文書提出命令の対象になるというべきである。
次に本件文書2は、右文書1と共に被控訴人所属の西脇医師会の会長が兵庫県医師会会長宛に提出した文書であり、所定様式中に「医療過誤の有無」という項目がある。文書1と同様本件訴訟の帰趨に不可欠であり、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出命令の対象になるというべきである。